福島便り
トランプ米政権が「相互関税」第2弾を発動した9日、福島県内の経営者は「いよいよ先が見えなくなった」とため息を漏らし、実情に合った支援の拡充を求めた。相談窓口を設置した金融機関は取引先への聞き取りなどを進め、情報収集を強化する。専門家は高関税政策が長期化した場合、世界景気の後退のあおりを受け、雇用喪失や消費低迷などで県内経済に冷や水となると訴える。
「米国、日本国内での生産移管も急いで検討しなければならない」。福島市で通信機器用精密部品を手がける福島創発技研の代表・紺野正人さん(52)は危機感をにじませる。
市内で設計・開発し、海外にある子会社が部品生産を担当。供給先は米国に依存し、全体の8割を占める。米中の貿易摩擦が激化すると見越し、昨秋に主な生産拠点を中国からベトナムに移したばかりだが、ベトナムに課される関税率は46%で、日本の24%よりも高い。供給先の大半を占める米国との取引を切るわけにもいかない。「新たな生産拠点をつくるため、融資を受けやすくなる支援が欲しい」と望む。
酒造り、コメづくりが盛んな福島県は米国に多くのファンを抱える。県によると、2023(令和5)年度の清酒輸出先のトップは米国。県酒造組合会長の渡部謙一さん(59)=南会津町・開当男山酒造=は「どんな影響が及ぶか、先が見えない。現地価格の引き上げが買い控えにつながるかも…」と不安を募らせる。
矢祭町の農業法人でんぱたで代表を務める鈴木正美さん(67)は取引のある米国の日系スーパーからの受注が途絶えないかを危惧。2022年から町産コシヒカリを輸出しており、「東京電力福島第1原発事故による輸入規制の撤廃で福島県の復興を支えてくれた。取引が続いてほしい」と願う。
株式市場は乱高下が続く。少額投資非課税制度(NISA)で米企業の株などを保有している、いわき市の会社員男性(50)は「大統領の発言に過剰反応した、ろうばい売りが増えたのが要因だろう」とみており、「一時的な状況に一喜一憂せず、企業の業績や決算を確認し、長期的な目線で株取引する」と話す。■県内3地銀取引先のサポート徹底
県内3地銀はいずれも9日までに、専用の相談窓口を設けた。影響が予想される取引先企業の状況把握などを能動的に進めている。
東邦銀行は福島市の本店営業部や県内外の支店合わせて74拠点に窓口を設置。製造業、輸出に力を入れている食品関連業をはじめ関税強化の影響で打撃を受けるとみられる企業へのサポートを徹底するよう全店に指示を出した。
福島銀行と大東銀行も個別の事情に応じた対応を講じるよう各店に指示した。■専門家「雇用喪失も」
国際経済学が専門の福島大経済経営学類の荒知宏准教授(44)は「長期間にわたって今回の高い関税が維持されれば、県内企業に甚大な影響を及ぼす」と指摘する。
特に製造業は世界的な分業体制に密接に組み込まれており米国経済への依存度が高く、より大きな影響が予想されるとみる。米国に輸出する県産品の価格高騰などで米国消費者の購入意欲をそげば、県内企業の売り上げ減少を招くと分析。世界的な分業体制が再構築され、県内企業やその親企業の工場が米国に移転すれば、県内の雇用喪失にもつながると想定する。
ここ数日の株価の急落は「今回の高い関税がどの程度の期間で続くか未知数―という不透明感を反映している側面が強い」と分析。「NISAなどで保有している金融資産を今すぐに売る必要性は低いように思う」としている。