福島便り
福島県浅川町の写真家藁谷六朗さん(81)は、町内の廃劇場「浅川座」の天井広告を撮影した写真集を刊行した。劇場は倒壊が進んで既に立ち入れなくなっており、明治末期~大正初期の建物の歴史を後世に残す貴重な資料になっている。
藁谷さんによると、町内では明治中期ごろから製糸工場が建設され始め、多数の労働者が各地から集まった。娯楽を提供するために有志が株主になり、浅川座を創設したとみられる。
戦前から戦後にかけて地方巡業の芝居や浪曲の興行の他、映画やのど自慢、素人演芸会の会場にもなるなど地域の娯楽を支えていた。時代が移り変わる中、藁谷さんの記憶によると、今から30~40年ほど前には劇場が使われることはほとんどなくなっていたという。
写真は劇場関係者の依頼を受けて2016(平成28)年に撮影。主に天井広告を60点ほど収録しており、地元の酒造店や土木会社、飲食店など当時の趣ある広告を見ることができる。藁谷さんによると、現在浅川座の天井は一部が崩落し、天井広告も消失した可能性が高い。
写真集は100部制作して町などに寄贈した。藁谷さんは「浅川座の内部を記録に残せて良かった。町の歴史を伝える本になったと思う」と話していた。(県南版)