福島便り
福島県立博物館(会津若松市)は今年度、多彩な専門分野の知見を持つ学芸員が歴史、文化、自然、芸能に関わる団体と連携を強め、文化振興や伝統の継承などを支援する事業に乗り出した。新たに「ミュージアムパートナー制度」を設け、制度に登録した団体に学芸員が専門家の立場から今後の活動の在り方などを共に考える。団体同士の交流や共同のイベントの企画も促し、文化振興や学術研究などの輪を広げる役割も担う。
「ミュージアムパートナー制度」の概要は【図】の通り。登録団体・個人と県博の専門性を生かし、双方が主体となった活動を展開する。4月の制度開始以降、県博との活動実績がある会津磐梯山盆踊りや茶道、琴演奏、民話の読み聞かせなどの団体、会津本郷焼の窯元など会津や中通りの14組がパートナー制度に登録した。今後も5組ほど加わる予定で、将来は全県的に広げることも視野に入れる。県博は考古、歴史、民俗など7分野19人の学芸員が中心となり、専門分野の知識を生かした活動や発表などをサポートする。
団体が持つ「技」と県博の「知」を掛け合わせ、活動に新たな息吹を吹き込む。具体的には芸能の発表や作品の展示などで学芸員が歴史的意義や魅力を解説する。展示物や歴史的史料も貸し出し、活動や研究の文化的価値を高める。茶道体験や能楽の公演で、貴重な掛け軸やびょうぶを披露する演出なども案の一つという。季節の行事や伝統芸能の公演、文化・ものづくり体験、子どもが対象のワークショップなどでの連携も想定している。登録団体・個人はエントランスホールや前庭などを練習や活動の場として活用することで、多くの人が文化芸術に触れる機会を創出できる利点も生まれる。
パートナー制度により、団体の横のつながりを育むのも狙いだ。これまでも県博を起点に周遊を促す「三の丸からプロジェクト」などで地元団体と連携してきたが、イベントは各団体が単独のワークショップを催す場合がほとんどだった。今後は登録団体のイベント日程を共有し、定期的な交流会を開くことで複数団体がコラボレーションした企画を生み出す。
「皆さんの『やってみたい』を、博物館と一緒につくり上げましょう」。9日に県博で開かれた初の交流会で、担当の主任学芸員塚本麻衣子さん(43)が出席者に呼びかけた。交流会では企画案などに加え、団体の会員数減少が続く現状などについて意見を交わした。会津美里町の会津本郷焼窯元で宗像窯9代目の宗像利訓[としのり]さん(40)は「本郷焼の器を使った茶道体験など、地域の皆さんと連携したワークショップを開催したい」と話す。三春町の琴士・飛田立史さん(65)は、江戸時代に会津藩士もたしなんでいたとされる「七絃琴」を奏でる。「県博を活動の場にすることで、訪れた人に気軽に演奏を楽しんでもらえたらうれしい」と期待を膨らませた。
今年度は試験的に制度を運用し、改善点などを洗い出す。塚本さんは「県博の強みを生かし、皆さんと文化の力を育んでいきたい」と力を込めた。