福島便り
高度経済成長期にできたインフラ設備の老朽化を背景に、住民主体で簡易的な橋の点検や維持管理を担う「平田村モデル」が全国に広まりつつある。同様の活動は少なくとも福島県内外の26市区町村で実践されている。「自分の地域は自分で守る」。人手や予算不足で行政によるインフラ維持が追い付かなくなる中、人口約5千人の村の取り組みに注目が集まっている。
平田村の取り組みは2013(平成25)年に始まった。日大工学部(郡山市)の協力で橋の状態を調べる簡単なチェック表を作り、行政区長らが年に1度、対象の村内65の橋を見回って村に報告する。老朽化の原因になる水がたまらないよう、排水升の清掃や雑草の撤去を担うこともある。現在はスマートフォンアプリでの点検にも取り組む。
橋は5年に1度の法定点検が管理する自治体に義務付けられているが、さらに短い間隔で住民が維持管理することで効率的に長寿命化につなげる狙いがある。村産業建設課によると、1年に1度の点検を村が担うとすると相当な予算と人手が必要。住民による橋の点検がきっかけで、倒れかけたガードレールの補修工事につながった例もある。
日大工学部によると、平田村を参考にした取り組みは全国26市区町村に広がっている。このうち熊本県天草市本町鶴地区では2年前に始まった。呼びかけ人で地元設計会社代表の畑元正司さん(65)によると、知人の紹介で平田村の事業に関わっていた日大工学部の浅野和香奈客員研究員(32)と知り合った。チェック表を使った点検や簡単な防水施工に地域住民と挑戦している。
鶴地区は50戸ほどの集落で大半が高齢者。畑元さんは事業を始めた背景を「うちみたいな山奥の高齢集落は、遅かれ早かれ費用対効果の点で行政から見放される。自分たちでやれることは今からやらないといけないと思った」と説明する。
国土交通省などによると、全国の約73万橋のうち約7割を市町村が管理する。ただ、2014~2018年度の点検で5年以内の修繕、撤去が必要とされた自治体管理の道路橋のうち、期限の2023(令和5)年度末時点で17%しか対策に着手できておらず、自治体の人手や予算の不足が浮き彫りになっている。浅野研究員によると、主導するのは住民だけでなく地域の企業や教育機関などさまざまだ。実践する自治体などが増えれば、ノウハウや成功事例を共有する機会の創出が期待される。
平田村では橋のメンテナンス事業より前から、村が材料を支給して村民自ら生活道路をコンクリート舗装する事業を行っている。浅野研究員は「こうした『普請』の考え方はかつて一般的だったが、高度経済成長期にインフラ整備を行政が引き取る中で薄れていった」と指摘。その上で、今後もインフラを維持する予算や人手不足は続くとし、「平田村のような『昔の文化』が逆に最先端になりつつある。インフラ維持に向けて国民的な議論が必要だ」と強調した。■橋のセルフメンテナンスに取り組む全国の自治体【宮城県】気仙沼市、大和町、富谷市、大衡村、大郷町、南三陸町【福島県】平田村、葛尾村、郡山市、棚倉町、南会津町【山形県】寒河江市【新潟県】長岡市【茨城県】笠間市、石岡市【東京都】世田谷区、青梅市【富山県】富山市【石川県】津幡町、能登町、加賀市【広島県】広島市【山口県】周南市【熊本県】熊本市、玉名市、天草市