福島便り
福島民報社は少子化問題に関し、県内59市町村にアンケートを実施した。少子化に歯止めがかからない要因について、地域によって重視している課題は異なる実態が浮かんだ。過疎化の著しい会津地方や、東京電力福島第1原発事故による影響の色濃い相双地方を含む浜通りは女性・若者の流出への危機感が強くうかがえた。県中・県南地方は県外流出に加えて子育て・教育を巡る経済的問題をより問題視している傾向がみられた。効果的な対策を講じる上では、各地域の実情に即した細やかな対応が求められそうだ。
少子化に歯止めがかからない要因として、6項目の選択肢から当てはまる二つを選ぶ方式で尋ねた。設問の選択肢と、地域ごとの回答傾向は【表】の通り。
会津・南会津地方は17市町村のうち、約9割に当たる15市町村が「女性・若者の県外流出」を選んだ。
調査の各設問への回答からは、若年層の転出の深刻さを少子化の主な要因とみる記述が目立った。
南会津町は自然減と社会減の顕著さが最大の要因とした上で「若者の流出に歯止めがかからず出生数・出生率ともに想定を下回っている」との見方を示した。「高校・大学がなく、希望する職業に就職できる環境も少ないため、若年層の定着が難しい状況が続いている」(北塩原村)といった切実な悩みも寄せられた。
流出抑止を重要課題と捉える認識は、原発事故からの復興へ歩む浜通りでも顕著だ。13市町村のうち、9割近い11市町村が県外流出を挙げた。対策は「町民の帰還や町外からの移住の選択肢となりうる環境整備が前提となる」(大熊町)などの記述から、被災地域に特有の厳しい状況がにじんだ。
総務省の2024(令和6)年の人口移動報告によると、県外転出者が県内転入者を上回る「転出超過」は本県では6683人と、全国で5番目に多かった。
県中・県南地方は21市町村のうち、14市町村が「経済的問題(子育て・教育費の増大)」を選択した。「県外流出」の14市町村と並び、「女性・若者が働きやすい職場の不足」の9市町村を上回った。
地域社会を維持していく上で必要な取り組みを「児童手当の拡充など経済的支援の強化」(泉崎村)とした指摘や、結婚に踏み切れない理由を「経済面で家庭を持つことへの不安を抱える若年層が多い」(平田村)とした記述からは、収入面での後押しを重視する自治体の姿勢が見えた。
県北地方は8市町村のうち、6市町村が「働きやすい職場の不足」を選んだ。国見町は「その他」を選択した上で、少子化の一因として「核家族化や共働き世帯の増加による育児負担の増大」を挙げ、世帯構成や就労環境の影響に触れた。
厚生労働省が発表した人口動態統計(速報値)では、2024年に県内で生まれた子どもの数(外国人を含む)は8637人で、前年より862人減少した。
アンケートは3月下旬~4月にメールで行い、全市町村から回答を得た。■「教育費の負担減」最多
「若者の就職」「結婚」も
少子化問題59市町村アンケート
国、県に求める支援策
少子化問題に関する59市町村アンケートでは、少子化対策に関して国や県に求める支援策を尋ねた。最多の31市町村が「教育費の負担軽減」を選び、「若者の就職支援」の28市町村とともに5割前後に上った。次いで「結婚支援」が4割強の25市町村だった。
支援策については9項目の選択肢から「特に重要」と考える2項目を選んでもらう形式を取った。設問の選択肢と回答結果は【グラフ】の通り。
西郷村は「教育費の負担軽減」に加えて「その他」を選択した上で、記述の中で「若者の賃金アップ、結婚・子育てとライフプランが描ける給与形態」を求めた。
県が2024(令和6)年度に実施した結婚・子育てに関する県民意識調査では、子どもを持ちたくない、理想よりも予定の数が少ない理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が51・9%と過半数を占めている。
「就職支援」を選んだ白河市は持続可能な社会を築く上で必要な取り組みとして、「全ての世代が地域で暮らしていけるようにするため、企業、特に中小企業の体質強化が必要」と指摘した。
「結婚支援」を選択した大玉村は独身男女向けの婚活イベントの開催や、新婚世帯への住居費・転居費補助などに取り組んでいる。「社会全体として結婚や子どもを持つことに関する意識そのものが変化している中、一自治体の支援だけでは限界がある」と悩みを明かした。■若者・女性の県外流出県も対策推進
アンケートで多くの市町村が「若者・女性の県外流出」などを少子化の主な要因とした認識は県も共有している。
今年度は事務所を新たに設けて女性を雇用した企業に対し、人件費・賃貸費の一部を支援する補助金を新設。学生をはじめとする若者らによるチームを組織し地域振興策や人口減少対策を議論する。中通りと浜通り、会津の3地域ごとにフィールドワークを行い、若い視点を対策に生かす。
県復興・総合計画課の鈴木章寛主幹兼副課長は「若者や女性に受け入れられる県となるよう、取り組みを進める」としている。